私は本来、自分の前職の話をするのは好きではないが、今日はこのブログを書くためと簡単な私の略歴を紹介するついでにあえて触れてみたいと思う。

私の前職は某不動産会社で、そこで約1年間営業職として修行を詰み、その後社内のデザイナーとなった。
(当時私はデザイナーとしてはほぼ素人だったため、まずは現場を見てからの方が良い仕事ができるという人事部の判断だった)

そしてここでのデザイナーの仕事というのは、自社の販売物件のチラシを作ったり、営業資料を作成するといった、言わばクライアントは自社の営業マンであり社長なのだ。

そして私も入社してから知ったことだが実はこの会社は社会的にも問題の多い体質の会社であった。
典型的なワンマン企業のこの社長は全体会議の場で営業マンに向かって「ワシの考えた商品を売れんお前らはゴミ以下や!」などと罵倒することも日常茶飯事だったし、反社会的組織が出入りをするような会社であったため、結局私も長くこの会社に勤まらなかった。

しかしデザイナーとして素人同然の私を採用していただき、今の自分のスキルの礎にもなった職場なので、悪い事ばかりでは無かったと今になれば思える。。。

さて、ここで本題に移る。
私はそんな社長からではあるが、今でも忘れられない言葉を1つだけいただいたことがあり、今も時折その言葉を思い出す事がある。

ある日、新規分譲地のチラシのラフを元に当時上司のデザイナーと社長とで打ち合わせをしていた時のことである。
打ち合わせの中で社長が我々にこう質問した。
「このチラシには分譲地周辺のスーパーや学校などの施設はちゃんと載ってるけど、この地の気候の特性や平均気温、年間雨量の少なさなどが "売り" になるのになぜ載せない? あそこは気候的には恵まれた土地のハズやぞ」

我々が質問に答える間もなく社長は立て続けに
「その前に、お前らはここが何で別荘地に向いてるとか、もっと言えばこの地の歴史とかまでも知っているんか?」
と聞かれたので上司と私が口を揃えて
「いいえ、知りませんでした。」と答えた。

すると社長が間髪入れず「それは知らんかったんやない! "知ろうとしなかった" んや!」
さらに社長がこう続けた「お前らは自分の浅い知識だけで仕事をしようとするな、自分の関わる仕事ひとつひとつに疑問を持ち、そして知ろうとしろ!」

私は返す言葉が全くなかった。結構荒めの口調で怒鳴られたが腹立たしさもなかった。
それよりむしろ自分の仕事に対する姿勢を全て見透かされた気持ちで恥ずかしさすら覚えた。

今の私の業務に置き換えて考えてみても、現場を見る機会やクライアントと直接接する機会が非常に少ないので「知らない」ことが山ほどある。
もちろん知らないことがあることは事実ではあるし、全てを把握することは不可能だが、大切なのはクライアントがなぜこのタイミングで依頼をし、我々に声をかけ、どういう効果を期待しているのかなどひとつひとつに疑問を持ち、その疑問に対して少しでも「知ろう」とする心構えである。

ついつい時間の無さにかまけて、与えられた情報だけで仕事に取り組みその結果に一喜一憂する事が当たり前になりがちだが、自分の知識というものは案件の全容、はたまた業界の全容に比べたらはるかに浅いものであるということを認識し、貪欲に情報を "取りにいく" 姿勢を大事にしたいと思う。


企画・クリエイティブ ディレクターK